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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)703号 判決 1976年3月18日

大阪市住之江区粉浜二丁目一三番六号

原告

実城利一

右訴訟代理人弁護士

片山善夫

ほか七名

大阪市住吉区上住吉町一八一番地

被告

住吉税務署長

坂元亮

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

徳田博美

東京都千代田区霞ヶ関

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右被告三名訴訟代理人弁護士

松田英雄

右訴訟復代理人弁護士

丸尾芳郎

ほか三名

右被告三名指定代理人

麻田正勝

ほか四名

主文

一、被告住吉税務署長が原告に対し昭和四一年七月一九日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を金七五六、三三七円とする更正処分のうち、金五九六、八〇三円をこえる部分を取消す。

二、原告の被告住吉税務署長に対するその余の請求ならびに被告大阪国税局長および被告国に対する請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、原告と被告住吉税務署長との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担、その余を各自の負担とし、原告と被告大阪国税局長および被告国との間においては、原告の負担とする。

事実

一  申立

1  請求の趣旨

(一)  被告署長が原告に対し昭和四一年七月一九日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を七五六、三三七円とするる更正処分のうち、四四七、五〇〇円をこえる部分を取消す。

(二)  被告局長が原告に対し昭和四三年四月一六日付でした裁決を取消す。

(三)  被告国は原告に対し金五万円およびこれに対する昭和四三年一〇月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および(三)につき仮執行宣言を求める。

2  被告らの答弁

(一)  原告の請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決および仮執行免脱宣言を求める。

二  主張

1  請求原因

(一)  原告は豆腐製造業を営む者であるが、被告署長に対し、昭和四〇年分所得税につき総所得金額を四四七、五〇〇円とする確定申告(白色)をしたところ、被告署長は昭和四一年七月一九日付で総所得金額を七五六、三三七円とする更正処分をした。原告はこれにつき異議申立をしたが棄却されたので、さらに同年一一月一六日被告局長に対し審査請求をしたが、同被告は昭和四三年四月一六日付で審査請求棄却の裁決をした。

(二)  被告署長の更正処分にはつぎの違法がある。

(1) 原告の昭和四〇年分の総所得金額は確定申告のとおりであり、被告署長は原告の所得を過大に認定している。

(2) 本件更正処分の通知書には理由の記載を欠いている。白色申告に対する更正だからといって、理由付記を要しないと解すべきでない。

(3) 本件更正処分は原告の生活と営業を不当に妨害するような方法による調査にもとづくものであり、かつ原告が民主商工会員である故をもって他の納税者と差別し、民主商工会の弱体化を企図してなされたものである。

(三)  被告局長は審査請求についての審理にあたり、原告の取引先等を脅迫して、違法な事後調査を行なった。

(四)  被告局長は原告の審査請求に対し速やかに裁決をすべきであり、またそれができたのに、故意にこれを遅延させ、一年五か月も放置して、原告の速やかに行政救済を受ける権利を違法に侵害した。原告はこれにより有形無形の損害を蒙ったが、これを慰籍するに足る金額は少なくとも五万円を下らない。

(五)  よって原告は本件更正処分および裁決の取消を求め、あわせて国家賠償法一条により被告国に対し金五万円とこれに対する右不法行為の後である昭和四三年一〇月二五日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する被告らの認否

請求原因(一)を認め、(二)(三)(四)を争う。

3  被告署長の主張

(一)  被告署長は原告の昭和四〇年分の所得調査を行なった際、原告に対し所得計算の基礎となる関係書類の提示を求めたが、原告はこれら関係書類の作成保管をしていないといって提示せず、質問に対しても具体的な応答をしなかった。このため被告署長は実額による所得計算ができなかったので、推計により本件更正処分をしたのである。

(二)  原告の昭和四〇年分の総所得金額(事業所得の金額)は別紙所得計算表A欄記載のとおりである。

(三)  右のうち売上金額はつぎのようにして算定したものである。

(1) 原告の昭和四〇年中における原料使用量は、大豆二〇四袋、ごとく豆一五袋で、前者は一袋四斗五升入り、後者は一袋一斗二升入りであるから、升目に換算するとあわせて九三六〇升になる。原告はこのうち五三・九%を豆腐、一九・二%を厚揚げ、二六・九%を薄揚げに使用し、原料一升あたりの製品出来高は豆腐なら一二丁、厚揚げなら四五枚、薄揚げなら六〇枚であり、その販売単価は豆腐については小売二五円、卸売一九円、厚揚げについては小売七・五円、卸売五・五円、薄揚げについては小売五円、卸売四円で、小売と卸売の比率はいずれも六五対三五であった。以上の資料にもとづき各品目ごとの売上金額を計算すると、豆腐一、三八六、三六六円、厚揚げ五四九、八八一円、薄揚げ七〇二、二四三円となり、これにコンニャクの売上金額一八二、〇〇〇円を加えると、計二、八二〇、四九〇円となる。

(2) かりに大豆につき一袋あたり二升、ごとく豆につき一袋あたり一升の目減りがあるとし、かつごとく豆は厚揚げ製造にのみ使用されるとして、前同様の計算をすると、豆腐一、二九九、二五〇円、厚揚げ五六五、七八〇円、薄揚げ六五八、一五〇円となる。

(四)  一般経費についての明細はつぎのとおりである。

(1) 水道光熱費

(イ) 水道料は、年間支払額八、四五九円のうち事業用を五〇%とみて、四、二二九円を計上した。

(ロ) 電灯料も、年間支払額二八、四九一円のうち事業用を五〇%とみて、一四、二九五円を計上した。

(ハ) 電力料は年間支払額一〇、三六九円の全部を事業用とみた。

(2) 消耗品費

これは原告が大阪国税局協議官に対して申述した金額である。

(3) 雑費

これも右同様原告の申述にかかる金額で、会費七、二〇〇円と諸雑費一八、〇八五円の合計額である。

(4) 原告の主張する交際費、保険料、福利厚生費などは、被告署長の主張する消耗品費や雑費の中に織り込まれて計算ずみのものである。

4  被告署長の主張に対する原告の答弁

(一)  同被告の主張(一)の推計の必要性は争う。

(二)  別紙所得計算表A欄の金額に対する原告の認否および主張額は同表B欄記載のとおりである。

(三)  同被告の主張(三)(1)のうち、原告の昭和四〇年中に使用した原料の袋数、製造品目別の原料使用割合、原料一升あたりの厚揚げおよび薄揚げの出来高、豆腐および薄揚げの販売単価、小売と卸売の比率は認め、その余は否認する。。大豆一袋は四斗五升入りとされているが、運送中の目減りがあるし、くず等の選別の必要もあるので、実際に使用できるのは一袋あたり四斗三升であり、ごとく豆も同様に実際に使用できるのは一袋あたり一斗である。また原料一升あたりの豆腐の出来高は一一丁であり、厚揚げの販売単価は薄揚げと同じく小売五円、卸売四円である。以上にもとづき各品目別の売上金額を計算すると、豆腐一、二一一、三八七円、厚揚げ三五八、四四五円、薄揚げ六六九、六〇〇円となり、これにコンニャクの売上金額一八二、〇〇〇円を加えると、計二、四二一、四三二円となる。

(四)  同被告の主張(四)の一般経費についてつぎのとおり反論する。

(1) 水道光熱費

水道料および電灯料について、同被告は事業用の割合を少なく見積っており、不当である。

(2) 消耗品費

同被告の主張する額には包装費が脱漏しているので、これを加えると一一〇、〇〇〇円になる。

(3) 雑費

これについては後日あらためて計算したところ、二八、七三〇円であることが判明したものである。

(4) 交際費

原告は当時豆腐商業協同組合住吉区支部の役員をしていたので、組合員の慶弔に際して出費を要することがあった。したがって交際費として年間七、〇〇〇円程度が認められるべきである。

(5) 保険料

営業用建物の火災保険料五、六〇〇円、ボイラーの保険料六、〇〇〇円、組合の保険料九〇〇円、計一二、五〇〇円である。

(6) 福利厚生費

右組合の新年会や運動会の会費として九、〇〇〇円支出している。

理由

一  請求原因(一)の事実(本件更正処分と不服審査)は当事者間に争いがない。

二  原告の総所得金額について

1  原本の存在とその成立について争いのない甲第七号証、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告は昭和四〇年当時その営業に関して帳簿類を備え付けず、原始記録も部分的にしか保存していなかったことが認められ、所得の実額を把握できる資料がないから、推計によりこれを算定する必要がある。

そして豆腐等の製造量は原料の使用量に正比例すると考えられるから、本訴で被告署長が主張している推計方法は一つの合理的な方法として是認すべきである。

2  収入金額

(一)  豆腐、厚揚げ、薄揚げの売上金額

(1) 原告方における昭和四〇年中の原料使用量が大豆二〇四袋およびごとく豆一五袋であることは、当事者間に争いがない。そして証人小桜一次郎の証言によれば、大豆一袋は六〇キログラムで、容量にして四斗五升入りであることが認められる(原告本人は、一袋四斗五升と公称されていても、運送中の落ちこぼれや不純物の混入のため正味四斗二升前後であると供述し、原本の存在とその成立につき争いのない甲第七、第八号証、乙第八号証にも、同様の理由により一袋四斗三升位である旨の供述記載があるが、小桜証人の証言に照らすと、一袋につき二ないし三升もの目減りがあるとはにわかに認めがたく、右供述を直ちに信用することはできない)。また成立に争いのない乙第二号証によれば、ごとく豆一袋の容量は一斗位であることが認められ、これに反する証拠はない。

そこで大豆二〇四袋とごとく豆一五袋を升目に換算すると、あわせて九、三三〇升になる。

(2) 原告方においては、右原料九、三三〇升のうち五三・九%を豆腐、一九・二%を厚揚げ、二六・九%を薄揚げに使用すること、原料一升から厚揚げなら四五枚、薄揚げなら六〇枚を製造できることは、当事者間に争いがない。問題は原料一升あたりの豆腐の出来高であって、証人小桜一次郎の証言によれば、大阪の豆腐業界では原料一升から豆腐一二丁をとり、一丁の量目を約四〇〇グラムにするのが標準であるが、立地条件や得意先あるいは製造技術、技法によって必ずしも一定せず、業者により一丁の大きさに差のありうることが認められるところ、原告本人の供述によると、原告は同業者との競争が激しく、かつ自己の店舗が粉浜商店街から僅かに横丁にそれた所に位置していて立地条件としては幾分劣位にあった関係上、一升分を一一丁に切り、標準より量目をやや大きくしていたというのであり、この供述は前記小桜証人の証言に照らしても、一応首肯するに足るものと考えられる。そしてまたこれは、厚揚げの単位あたり出来高との比較によっても裏付けることができる。すなわち、一般に厚揚げ四枚が豆腐一丁に相当するとされているので(甲第八号証および小桜証言)、一升あたりの厚揚げの出来高四五枚(争いがない)を豆腐に換算すると一一丁強となり、原告の言い分に近い数値が得られるのである。このような観点から当裁判所は原告の供述を信用に値いするものと認め、原告方における原料一升あたりの豆腐の出来高は一一丁であると認定する。

そうすると、各品目別の年間製造量は、豆腐五五、三一九丁、厚揚げ八〇、五九五枚、薄揚げ一五〇、六〇〇枚となる。

(3) 製品の販売単価が、豆腐については小売二五円、卸売一九円、薄揚げについては小売五円、卸売四円であったことは、当事者間に争いがなく、厚揚げについては、原告本人尋問の結果により、薄揚げと同じく小売五円、卸売四円であったと認める(証人小桜一次郎の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第三号証の二によれば、大阪府豆腐油揚商工業協同組合は昭和四〇年二月一日に標準価格を改定し、厚揚げについては小売七・五円、卸売五円と定めて業者を指導してきたことが認められるが、この価格による販売が強制されていたわけでないことはもちろんであるし、また右乙第三号証の二によると、厚揚げと薄揚げは単価が卸小売とも同値に定められているから、原告方においても特段の事情のないかぎり厚揚げは薄揚げと同値であったと認めるのが相当である)。そして小売と卸売の比率は各品目とも前者六五%、後者三五%であったことは、当事者間に争いがない。

そこでこれにより各品目ごとの売上金額を計算すると、豆腐一、二六六、八〇五円、厚揚げ三七四、七六六円、薄揚げ七〇〇、二九〇円となる。

(二)  その他の収入金額

コンニャクの売上金額一八二、〇〇〇円および雑収入金額七七、一〇〇円は、当事者間に争いがない。

3  必要経費

(一)  水道光熱費

成立に争いのない乙第五号証の一によれば、原告方における昭和四〇年中の水道料は八、四五九円、電灯料は二八、四九一円、電力料は一〇、三六九円であるが、証人相見勉の証言によれば、水道料および電灯料はその半分、電力料はその全部が事業用であると認められる(豆腐製造には多量の水を消費するが、同証言によると、原告方ではその大部分を井戸水で賄っていることが認められるから、水道料につき事業用と家事用を半々に見ても不当ではない)。よって必要経費に計上できるのは、水道料四、二二九円、電灯料一四、二四六円、電力料一〇、三六九円である。

(二)  消耗品費

証人相見勉の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第六号証によれば、原告は原告の審査請求事案を担当した大阪国税局相見協議官の質問に対し、消耗品費は泡消、石けん、磨き砂、しぼり袋、什器、器具、ガソリン代等計七五、三三〇円であると答えていたことが認められるところ、本訴において原告本人は、消耗品費としてはこのほかに包装費(ビニール袋、木の舟、紙など)約五万円があるので、これを加算すべきであると述べており、これは原告の業種に照らして首肯するに値いするから、右供述を採用し、消耗品費は原告主張のとおり一一〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(三)  雑費

右乙第六号証によれば、原告は相見協議官に対し、雑費として会費七、二〇〇円、その他一八、〇八五円計二五、二八五円を計上して申述していたことが認められる。しかるに本訴で原告は雑費として二八、七三〇円を主張するに至ったが、その内容は不明であり、これをそのまま認めるわけにはいかない。よって雑費としては当初の計上額二五、二八五円のみを認める。

(四)  交際費、保険料、福利厚生費

これらについては、原告の主張に副う証拠としては原告本人の供述があるのみであるが、これによってもそのいうところの交際費および福利厚生費と事業との関連性は不明確であり、また保険料については領収書のような的確な証拠がなく、結局右供述のみをもってしてはこれらを経費として認めることができない。

(五)  その他の経費

必要経費中その他の項目の金額については、当事者間に争いがない。

4  そうすると、収入金額は計二、六〇〇、九六一円、必要経費は計二、〇〇四、一五八円で、前者から後者を差引くと、総所得金額(事業所得の金額)は五九六、八〇三円となるから、被告署長のした本件更正処分は右金額をこえる限度で違法といわなければならない。

三  更正の手続的違法の主張について

1  原告は本件更正通知書に理由の記載が欠けていることを違法と主張するが、原告が白色申告者であることは原告の自認するところであり、白色申告者に対しては更正の理由付記は法律上要求されていないから、右は何ら違法事由とはならない。

2  違法調査および差別的取扱の主張については、これを認めるに足りる証拠がない。

四  裁決取消請求について

この点についても原告の主張を認めうる証拠はなく、裁決に違法はない。

五  国家賠償請求について

原告が昭和四一年一一月一六日に審査請求をし、被告局長が昭和四三年四月一六日付で審査請求棄却の裁決をしたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば審査請求から裁決までの期間は一年五か月であるが、被告局長が同種事案を大量に処理しなければならない実情にあったことを考慮すると、この程度の期間を要したからといって、直ちに原告の速やかに行政救済を受ける権利が侵害されたとはいいがたく、国家賠償請求は理由がない。

六  以上説示したところにより、原告の更正処分取消請求は総所得金額五九六、八〇三円をこえる部分につき理由があるものとしてこれを認容し、その余は失当として棄却し、裁決取消請求および国家賠償請求はいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村正策 裁判官 藤井正雄 裁判官 山崎恒)

所得計算表

<省略>

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